シティポップは、主に1970年代から80年代の日本で生まれた、都市的なポピュラー音楽の広がりを指す言葉です。AOR、R&B、ファンク、フュージョン、ディスコが交わり、その境界はレコードや選曲者、聴き手によって動きます。旅の方角を示すには便利でも、厳密な境界線を引くには少し大きすぎる名前なのかもしれません。緻密に組み立てられた音、遠くの暮らしへの想像、人前では語らない気持ち。都市はさまざまなかたちで歌の中に入ってきます。一枚のレコードが複数の音楽の伝統に属し、何十年も後になって、別の聴き手がそこに新しい隣り合い方を見つけることもあります。
ここに載せた東京の写真は、1978年3月、銀座第一ホテルの屋上から撮影されたものです。夕日の下で線路、道路、広告、高層ビルが重なり、移動と仕事を支える都市の骨組みが見えてきます。この時代全体を「バブル」の一語で包むと、時間の違いが失われます。日本経済は70年代から80年代初頭にかけて石油危機などの変動を経験し、資産価格のバブルを伴う拡大は80年代後半に起きました。いまシティポップと呼ばれるレコードは、その両方にまたがっています。再生ボタンを押す前に経済史を学ぶ必要はありません。ただ、この起伏を残しておくと、豊かさへの憧れとともに、ためらいにも居場所が生まれます。
銀座第一ホテルの屋上から見た東京、1978年3月。撮影:LBM1948、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons。 出典 CC BY-SA 4.0ウェブ用に縦横比を保って縮小し、WebPに変換。トリミングや画像修整はしていません。
もっと小さな物も、音楽を聴く空間を変えました。1979年7月1日、ソニーは初代ウォークマンTPS-L2を発売します。録音機能とスピーカーを省き、ステレオ再生と軽量のヘッドホンを組み合わせた製品でした。道順は街に決められても、その時間に何を聴くかは持参したカセットで選べる。この仕組みは、移動する個人にささやかな裁量を与えます。一台の機械だけで音楽の誕生を説明することはできません。それでも「都市の音楽」という言葉には、手で触れられる意味が一つ加わります。街は歌に描かれる場所であると同時に、音を携えて通り抜ける空間にもなったのです。
1979年発売のソニー・ウォークマンTPS-L2。写真は2006年撮影の博物館資料で、発売当時の現場写真ではありません。撮影:Anna Gerdén/Tekniska museet、CC BY-SA 3.0、Wikimedia Commons。 出典 CC BY-SA 3.0ウェブ用に縦横比を保って縮小し、WebPに変換。トリミングや画像修整はしていません。
レコードのクレジットに目を移すと、別の交通網が現れます。大貫妙子の1977年作『SUNSHOWER』では、坂本龍一が音楽監督と編曲を担当。「都会」には、ベースの細野晴臣、ドラムのクリス・パーカー、バックグラウンド・ヴォーカルの山下達郎らが名を連ねます。竹内まりやの1984年作『VARIETY』では、全曲の作詞・作曲が竹内、プロデュースが山下です。この役割の違いを、小さな文字だからと読み飛ばしたくありません。共同作業の中にも作者はおり、ジャケットの名前だけでは録音のすべてを説明できない。「洗練」と呼ばれるものには、それぞれの仕事を引き受け、互いに支え合う人々の姿も含まれています。
都市の名を持つ音楽が、なぜプールや海岸、澄んだ空と結びつくのでしょう。永井博のジャケット作品は、その問いへの入口になります。国際交流基金の展覧会図録は、彼のリゾート風景を、アメリカ西海岸やハワイへの想像、そして消費社会の視覚表現と結びつけて紹介しています。年月を経て、Light in the Atticは『Pacific Breeze』のために新たな絵を依頼しました。シティポップの「都市」には、そこから離れたいという願いも収まるようです。海辺は実際の目的地にも、日常に残しておきたい余白にもなる。そうした絵と現実の街の写真を並べると、願望と暮らしのあいだにある距離が見えてきます。
レコードの新しい人生も、多くの手を経て続いています。ポニーキャニオンが2020年12月に伝えた「真夜中のドア/Stay With Me」の再浮上には、クラブDJ、オンラインの選曲者、同年10月にカヴァーを発表したインドネシアの歌手Rainychが登場します。Light in the Atticの『Pacific Breeze』シリーズは、収集と選曲を、解説付きの再発盤という別の経路へつなぎました。再評価の歴史もまた、新しい共同作業の歴史として読むことができます。昔から聴いていた人、初めて出会う人、再び世に送り出す人。それぞれの記憶が違っていても、一曲を分かち合うことはできるのです。
2019年4月18日のタワーレコード渋谷店。後年のレコード販売の風景であり、1970〜80年代当時の店舗写真ではありません。撮影:DXR、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons。 出典 CC BY-SA 4.0ウェブ用に縦横比を保って縮小し、WebPに変換。トリミングや画像修整はしていません。
City Pop Atlasは、そんな出会いから始まります。知っている歌い手から、作曲や編曲の線をたどって、まだ知らない名前へ。あるいは知名度を少し脇に置き、同じ名前が別のレコードにどう現れるかを見てみてください。グラフの楽しさは、中心になる人物が次々と変わることにあります。覚えているサビが入口になり、見過ごしていた参加者が次の行き先になる。もとのジャケットに戻ってきたとき、レコードそのものは変わっていません。それでも、その背後の街には、いくつか新しい通りが増えているはずです。