『泰安洋行』に添えられた英語名は『Bon Voyage Co.』。人に旅の無事を祈る会社のように聞こえる。会社には決まった住所が必要だが、旅はそこを離れることである。この小さな矛盾が、細野晴臣の1976年作によい入口をつくる。遠方はジャケットの景色だけではなく、名前の中に交換、運搬、接待の可能性が入っている。想像される世界は、観光客の写真を待つ目的地より、品物が出入りし続ける商号に似ている。
日本クラウンの曲目表には「香港ブルース」「ルーチュー・ガンボ」「東京シャイネス・ボーイ」が並ぶ。香港、琉球を指す呼び名、東京。それにブルースやガンボという語が近づきながら、一つの土地になってしまうわけではない。この隣り合わせを、ゆっくり読んでみたい。地名が呼び起こす連想は、隣に別の言葉が置かれると動く。レコードはその動きを使い、地図が決めていた中心と周辺の位置を少し緩められる。交通は場所だけでなく、言葉の間にも起こる。
洋行という考え方は、文化の移動に物や商売や日常的な接触が関わることも思い出させる。ひとりの芸術家が孤独に世界を発見する物語だけではない。これらの題名を民俗学的な報告と受け取らなくても、その好奇心は大切にできる。違いを近くへ運び、完全に同じにはしない、その方法を見るほうが実りがある。そこでユーモアが働く。商号、内気な少年、旅への挨拶によって、地域を越える大きな試みが、人の座って話せる大きさを保つ。
『Tropical Dandy』が身のこなしを携えて出発する人なら、本作は往来のために設けられた仮の営業所として読める。同じ旅程の次のページという以上に、よそを見ることを持続する方法へ変えている。後の聴き手がどの分類へ置いても、曲同士の関係まで一つの分類に買い取られる必要はない。よい商号とは、すべての品物が同じだと保証する場所ではなく、一つの問いを持って来た人が、思いつかなかった問いを増やして帰る場所かもしれない。旅の祝福は、その未完了の中にある。