ベスト盤は、後ろを向く形式のように見える。すでに起きた出来事を並べ直し、一人の活動に持ち運びやすい目次を付ける。だが、大橋純子の「I LOVE YOU SO」は、その働きを少し複雑にする。ユニバーサルは『MAGICAL 大橋純子の世界Ⅲ』を三枚目のベスト・アルバムと説明し、「A LOVE AFFAIR」とともに、この曲を希少な収録曲として挙げる。まとめるための器が、後から来た聴き手には、歌手に初めて出会う場所にもなる。整理された記録と新しい発見は、同じレコードの中で共存できるのだ。
『MAGICAL』は確かな歴史上の位置を与えてくれる。ユニバーサルによる初版年月は一九八四年七月、参照したCDは二〇二二年の版だ。この発売記録の中に曲を置くことはできるが、編集盤へ入る前の最初の発表経緯は、これらの資料だけで独立には確定できない。作者の分担は明瞭で、作詞は大橋、作曲・編曲は佐藤健だ。マイクの前にいる人は、作品がどんな言葉で成り立つかにも関わっていた。自作する歌手だけが本物だという話ではない。実際に行われた執筆の仕事を、表紙で目立つ歌手という肩書の陰に隠さずに読むということだ。
「I LOVE YOU SO」は、あまりに見慣れていて、かえって見落としそうな英語の題名である。感情に貼る既製のラベルにも見える。しかし、誰もが知る言葉へ一回の発言の重さを与え、それでいて当事者だけにしか分からない暗号にはしない。その難しい課題こそ、ポップ・ソングが何度も引き受けてきたものだ。独自性は、珍しい単語を使うことだけでは生まれない。ありふれた言葉に、しばらく留まれる形を与えることでも生まれる。個人的な来歴を知らなくても、その言葉の広さには入れる。個人の尺度を保ちながら、別の人生のための席も残されているのだ。
そう考えると、ベスト盤は必ずしも功績を飾る陳列棚ではない。本の間に別の手紙が挟まっていて、目次を眺めるつもりだった人が、まだ読み終えていない一頁に出会うようなものでもある。この曲に独立した場所を設けるために、幻の名曲という物語をでっち上げたり、通だけが理解する価値を持ち出したりする必要はない。親しい題名、確かめられる作者の組み合わせ、知識より先に注意を向けられる歌。普通の入口で十分なのだ。過去を整えるためのレコードが、その過去を終わり切らせないこともある。