『SONGS』は、ほとんど手がかりを渡さない題名だ。歌は歌。それだけである。シュガー・ベイブが一九七五年に発表した一枚の、その簡素さには、いま見ると余裕もある。入る前に複雑な世界観への同意を求めない。山下達郎、大貫妙子たちの共同作業が、複数の声を容れられる複数形の言葉の下に置かれている。
公式の周年資料には、当初のメンバーとして村松邦男、鰐川己久男、野口明彦の名もあり、後の参加者も記される。これらの名前を残すことは大切だ。後に有名になった二人だけでバンド史を説明するのは、集合写真を証明写真へ切り分けるようなもの。顔は分かりやすくなっても、関係は消える。後年の知名度の差を認めながら、当時の共同作業を今日の名声に合わせて配り直さずにいたい。
『SONGS』はナイアガラ・レーベルの出発にも位置し、大瀧詠一の制作やレーベル活動とつながる。始まりには二つの尺度がある。バンドにとっては一枚のアルバムであり、発表の場にとっては音を聴衆へ届ける実践でもある。歌の外には、歌をレコードにする組織的な仕事がある。主唱ほど目立つ顔を持たなくても、知らない人が作品を見つけられるかどうかに関わっている。
一枚だけの目録では、拡張された再発盤も錯覚を生みやすい。Sonyの周年盤は原曲とデモ、ライブ素材などを区別する。追加音源が視野を広げても、最初の盤が独自の境界を持っていた事実は変わらない。もっと聴きたいのは好奇心、何が原作かを覚えておくのは敬意だ。二つは両立でき、初期盤を大切にするために後の保存を無価値と見なす必要もない。
だからシュガー・ベイブは、山下や大貫へ行く乗換駅だけであってほしくない。駅にも固有の建物と出会いと出発時刻がある。『SONGS』を一つの作品として過ごせば、後の職業上の道筋が協働を分ける前の時間が見える。一枚しかない名前も、広くあり得る。そこにあるのは欠けた続編ではなく、当時、本当に隣り合っていた複数の可能性である。