『VARIETY』という題名は、選びきれない人への親切な提案のようにも見える。決めなくても、いろいろあります、と。しかし竹内まりやの一九八四年のアルバムには、明確な中心がある。公式ディスコグラフィによれば、全曲を本人が作詞・作曲し、山下達郎がプロデュースした。多様であることは作者の輪郭を薄めない。同じ人が、毎回同じ制服を着なくてもよいということだ。
「プラスティック・ラヴ」はその一枚に収められている。ただし、あくまで一曲として。アルバムを開き直す意味は、知らなかった曲を増やすことだけではない。作品の比率が変わるのである。広く流通する一曲は、もともと大きな建物の中にあった。いちばん有名な部屋を、家全体だと思い込む必要はない。聴き手が一つの期待を持って訪れても、作者には全部の扉を同じ色に塗る義務などない。
一九八七年の『REQUEST』では、作者の別の姿が見える。公式の紹介には、ほかの歌手に提供した曲を自ら歌った作品が含まれるとある。他人の声で送り出した曲が、自分の声に戻ってくる。旅の跡をつけて帰ってくる手紙のように、曲は異なる歌い手との関係を持っていく。書くことと歌うことの間には距離があり、同じ曲に複数の成立する姿があってもよい。
山下との協働も、その区別を保つと読みやすい。制作の署名と詞曲の署名は、互いを支えながら、異なる仕事を指している。長い活動をロマンチックな物語に圧縮するより、一人の作者が作品群を組み立てる過程を見るほうが面白い。シングルは旋律を紹介し、アルバムは旋律の行き先を決める人を少しずつ紹介する。
初めて聴く人に、レコード史の試験を課すつもりはない。偶然出会った一曲だけの、小さな入口で十分だ。ただ、その先へ進めば、竹内の名前は画像に添えられた説明から、動詞の主語になる。書く、選ぶ、もう一度歌う。見落とされやすい創作の主体性は、そんな文法の変化によって、はっきり見えてくる。